飲食店成功の秘訣は「地域の課題解決ができる存在になること」

飲店経営は難しいとよく言われます。 メディアではアフターコロナ後の店舗の閉店・廃業のニュースを目にすることが増えたり、原材料のコストが高騰し営業が難しいとの声も多く耳にします。

その一方、成功している店舗も存在します。では、成功と失敗の境界線は何か? 2010年に食の世界に飛び込み、レシピ開発や業態開発支援などを行ってきた経験をもとに、数々の食の事業を見る中で「飲食店ビジネスのフレームワーク」を構築することができました。

今日は、そのフレームワークをご紹介します。フレームワークの名前は本サイトと同じ「FOODISTA」です。

飲食店の成功に必要な2軸「地域密着×お客様の期待値を超える」

飲食店の成功の鍵は「地域密着×お客様の期待値を超える」ことです。
成功するためには、

1.地域の課題を解決する存在として、地域密着の店舗作りをすること

2.お客様の期待を超えるメニュー/サービスを提供すること

この2つが大変重要です。地域密着とは何か、お客様の期待を超えるとは何かについて、詳しく説明します。

FOODISTAのフレームワーク① 地域密着とは「地域に貢献すること」

地域密着と聞くと、お祭りや商店会への参加を想像する方も多いでしょう。これらも重要ですが、手段の一部に過ぎません。

高い知名度を持つシェフが監修する店舗のオープンは、訪れる方を増やしたり、地域の魅力を伝えるという観点で地域の課題解決の一例です。
しかし、特別な店舗でなくても、「地域の人々が求める料理を提供すること」も、立派な「地域への貢献」と言えます。

FOODISTAのフレームワークでの「地域密着」とは、具体的に「地域への貢献」を意味します。

例として、オフィス街での迅速なランチ提供や、ターミナル駅での集客対策、住宅街での家庭向けメニューなど、各地域のニーズに応える提供が「地域への貢献」となります。
「今日は自宅で料理を作りたくない」「惣菜よりも少し特別な料理を食べたい」「ランチタイムに早く食事をしたい」など、これらのニーズへの対応が「地域への貢献」となります。

開店後長続きしない多くの店舗が、この「地域への貢献」という視点を欠いています。多くの販促費をかけて開店初期には集客があっても、継続しないケースが多いのは地域への貢献が欠けているからです。

FOODISTAのフレームワーク② お客様の期待値は「店舗のオペレーションカテゴリー」で測る

最も飲食店が見落としている部分はこの「オペレーションカテゴリー」の考え方です。

調理技術を高めなければならない、といった課題意識を持っている店舗の方も多いのですが、技術は簡単には高めることはできません。
現在持っている技術を活用したり、技術が無いのであれば用いる食材で工夫するなど、やるべき手段が異なるのです。この点が手段を取り違えているようなご相談を受けることも多々あります。

自身の店舗をフレームワークに従って診断し、属するカテゴリーの中でどのように改善していくのか、この点が最も大事な部分あり、お客様の期待値に応えることができる部分です。
この「店舗オペレーションカテゴリー」という考え方を導入し、不足している部分を補う、課題となる部分を改善することが重要です。

FOODISTAフレームワーク①地域密着に向けて重要なことは「交差点単位でお店の立地を分析」する

地域密着に向けて重要な視点として、「交差点単位での店舗立地の分析」が挙げられます。多くの飲食店は、近隣の駅の乗降客数などを参考にしますが、それだけでは不十分です。飲食店の立地を正確に捉えるためには、交差点ごとの特性を理解することが不可欠です。

この考え方は、住宅街やターミナル駅、ロードサイド店舗、商業施設内でも同様の考え方が適用可能です

駅の乗降者数や、一般情報では見落とすことが多数

駅の乗降者数や一般的な情報だけでは、多くの重要な情報を見落としてしまいます。

例として、私たちが経営するお弁当店を挙げると、交差点ごとの特性を理解することが非常に重要だと感じています。店舗の住所は目黒区目黒4丁目ですが、近隣の目黒通りは、駅方面から550メートルもの間に横断歩道がないため、南側からのアクセスは限定的です。

目黒通り
目黒通り

目黒通りを南北に横断するのは難しく、歩道橋もありますが、制約があります。

さらに、駅への移動手段としてバスが主要となっており、バスを利用しない限り、駅へのアクセスが難しい地域です。

目黒のバス停では、多くのバスが頻繁に通行しています。このため、特定の目的がない限り、バスを降りてその地域での滞在や消費をすることは難しいと言えます。

目黒のバス停
目黒のバス停

もちろん自転車という選択肢もあり、多くの方が自転車を利用されています。しかしながら、目黒駅周辺は駐輪場の大きさがあまり大きくない、坂道が多いなど、自転車での買い物にも制約があったりします。この地域は住宅地でもあり、大きな商業施設が存在しないため、外部からの来訪者を多く期待することはできません。主なターゲット顧客は、近隣に住む住民となります。

そのため、私たちの店舗における「地域に貢献すること」は、近隣にお住まいの方が「お料理をしないで、おいしいものを食べたい」というニーズととらえ、お弁当を作り、販売しています。

大規模な広告を打つこともなく、店頭の看板が最も大事なコミュニケーションツールであり、年齢層に合わせた予約チャネルを準備しています。

550メートル離れた交差点で店舗を営業していたら、まったく異なるメニューを提供していると思います。近隣に大規模な外資系のオフィスが入っているため、グローバルな社員の方向けのメニューであったり、目黒川でのお花見シーズンに合わせたワンハンドイート(歩きながら食べることができるメニュー)を提供するでしょう。

目黒川
目黒川

お花見の一大スポットである目黒川から550メートル離れただけで、私たちのお店にはお花見需要は全くありません。このくらい交差点単位で特徴をつかむ必要があるのです。

続いてFOODISTAフレームワーク②についてご紹介します。

「店舗のオペレーションカテゴリー」を用いた期待値の算出

店舗のオペレーションカテゴリーによる期待値の算出とは具体的にどのようなことでしょうか?

これは、店舗が提供するメニューをオペレーションごとにカテゴリー分けし、そのカテゴリを基にお客様の期待を超えるメニューを提供することで、満足度を高める考え方です。高いカテゴリーへ移行することが目的ではありません。

一般社団法人ジャパンフードクリエイティブ協会では、店舗運営において目指す方向やサービス内容をオペレーションごとに分類するオリジナルの方法を定義しました。具体的には、カテゴリー1から5までの5つに分類します。このカテゴリーの考え方に合わせて

  1. 顧客の期待値の一致:
    顧客があるカテゴリの店舗を訪れた場合、そのカテゴリに特有のサービスや料理を期待しています。そのため、その期待に応えることが最も重要です。
  2. 差別化の追求:
    各カテゴリー内での独自性や特色を追求することで、競合他店との差別化が図れます。これにより、顧客のリピート率や新規顧客の獲得がしやすくなります。
  3. 経営リソースの集中:
    カテゴリーごとに特化してサービスを提供することで、人材育成や商品開発、マーケティングなどの経営リソースを集中的に活用できます。
  4. ブランドイメージの確立:
    カテゴリー内での特色を強化することで、店舗のブランドイメージを明確にし、顧客に強い印象を残すことができます。

このフレームワークを活用することで、飲食店経営者はより明確な方向性を持って、サービスの質や顧客満足度の向上に取り組むことができるでしょう。

FOODISTAオペレーションカテゴリー
FOODISTAオペレーションカテゴリー

カテゴリー1:カットするだけの店舗

カテゴリー1は、仕入れた商品を盛り付けるかカットするだけの店舗です。

例として、仕入れたケーキや果物をそのままカットして提供する飲食店がカテゴリー1に該当します。
このカテゴリのメリットは、特別な技術を必要としないため、容易に開業できる点です。
一方、デメリットは、独自の仕入れ先や工場がない限り、提供するメニューが業務用スーパーのものと似てしまい、差別化が難しい点です。

実際、スーパーの総菜コーナーや中食のメニューの提供メニューや技術が年々向上していることもあり、提供するメニューや価格の設定には注意が必要です。

近年はコンビニエンスストアでカテゴリー2に属するようなメニューを店頭で提供していることもあるため、カテゴリー1の競合は異業種にたくさん存在します。

カテゴリー1の店舗がお客様の期待を上回るためには、価格をアピールするか、工場で独自の加工品を開発し、メニューとして提供する必要があります。

カテゴリー2:カテゴリー1+調理家電で加熱

カテゴリー2は、カテゴリー1に加熱の工程が追加された店舗です。

特徴としては、火を使わず調理家電(例:電子レンジ)で加熱する点です。
大手コーヒーチェーンのような「温めますか?」というスタイルがこのカテゴリに近いです。
このカテゴリのメリットは、調理が簡単で、どのスタッフが調理しても品質のばらつきが少ない点です。
デメリットとしては、カテゴリー1と同じく、独自の仕入れ先や工場がないと、提供するメニューが業務用スーパーのものと類似しやすい点、さらに大手チェーンが独自の商品開発を積極的に行っているため、顧客が大手に移りやすい点が挙げられます。

カテゴリー2の店舗が顧客の期待を上回るためには、独自性のある商品を提供できる工場と連携して商品開発し、仕入れることが競争上の優位性につながります。その際、加熱方法も詳細に指定する必要があります。

カテゴリー1同様、近年はコンビニエンスストアもカテゴリー2の店舗と同等の調理で惣菜提供を行ってるケースもあるため、提供メニューはコンビニエンスストアを超えることは必須です。

カテゴリー3:カテゴリー2+火を使って加熱

カテゴリー3は、カテゴリー2に火を使用した加熱が追加された店舗です。

主に、アルバイトがシフト制で調理を担当する居酒屋やファミリーレストランがこのカテゴリに該当します。このカテゴリの特徴は、シフトでも運営が可能なオペレーションとレシピの採用したり、加工食品を組み合わせてメニューを提供できる点です。

メリットは、独自の特色を出しやすく、家庭の味とは異なるメニューも提供できる点です。

一方、デメリットは、調理スタッフによって味が変わりやすい点や、サービスレベルが落ちるリスクがある点です。

カテゴリー3の店舗が顧客の期待を上回るためには、中食の品質を超える味を提供すること、季節のメニューの導入、また多様な顧客に対応するメニューの提供が必要です。

カテゴリー4:カテゴリー3+調理技術を駆使

カテゴリー4は、カテゴリー3に料理人の技術が加わった店舗です。

このカテゴリーの店舗は「料理人の顔が見える」店舗が多いことが特徴です。

メリットとしては、お客様に対して、特別感を提供できることや、より高い評価を得る可能性がある点が挙げられます。

デメリットとしては、料理人の技術により味わいに差が出てしまいがちのため、料理人が常に厨房に立ち続ける必要があり、休むことが難しいなどの点が挙げられます。

カテゴリー4の店舗が顧客の期待を上回るためには、働くスタッフ全体の技術向上とサービスレベル向上といったスタッフの育成、そして独自のレシピの開発により、お客様に喜んでもらうようなメニューを提供し続けることが重要です。

カテゴリー5:カテゴリー4+産地にこだわり

カテゴリー5は、カテゴリー4に産地のこだわりが追加された店舗です。この組み合わせにより、高い顧客満足度を提供できたり、圧倒的な差別化を図れることが可能となります。

メリットとしては、技術と食材の組み合わせによる高い満足度や、新しい料理の提供が可能となる点が挙げられます。

デメリットとしては、カテゴリー4と同じく、料理人の技術によるばらつきや、休むことが難しい点が挙げられます。
さらに、産地の生産状況によって食材の品質が変動することがあり、その変動をカバーする調理技術が求められます。

カテゴリー5の店舗が顧客の期待を上回るためには、料理人の高い技術と、産地の食材への深い理解と情熱が必要です。また、季節や生産状況に応じたメニューの変更や、食材のストーリーを伝えることで、顧客とのつながりを深めることも大切です。

大事なことは「カテゴリーを変えること」ではなく「カテゴリー内で充実させること」

以上のように、カテゴリーで分類して見えてくることは、飲食店の経営が難しいのではなく、お客様の「食」という体験を行うチャネルが従来の飲食店のフィールドを超えて、中食・そして小売りまで広がっているため、今までのやり方とは異なる店舗経営が求められ、よりおいしさを提供する工夫が必要になっています。大事なことは上のカテゴリーになることを追求するのではなく、カテゴリーごとに提供するメニューやサービスを構築することです。

交差点単位で客観的に地域の特性をとらえ、店舗の立ち位置をカテゴリーの考え方に沿って把握することで、地域に求められる店舗として必要な要素は何か?を抑えることが重要です。

このフレームワークに沿って、有意義な食の情報を発信してまいります。


最新の記事